<特別寄稿>

   イラクの平和国家樹立を切望する
                                             
   

             中西洋一郎・静岡大学電子工学研究所

 

 サダムフセインの筆舌に尽くしがたい卑劣な行為は許されるものではない。しかし、サフィアはこの卑劣な行為がサダムだけによるものでないことを主張したいのだ。イラクを民主国家に導くことがサフィアの究極の目的である。今日なおその目的に対して道半ばであるが、彼女のバイタリティたるや空前絶後である。由緒ある族長の血を引き継いだとはいえ、その行動力たるやもの凄い。常に命の危険に晒されながら果敢に行動するサフィアには頭の下がる思いである。

 今日、野蛮な行為、卑劣な行為は、残念ながら世界中至る所で行われている。こうした行為はIT環境がここまで発展した今日、本来なら世界のどの国でもお見通しであるはずであり、これに対して、国連が機能しているはずである。ところが、いかなる非道徳な行為も国連によって正されるべきであるにもかかわらず、北朝鮮の拉致、独裁、ミャンマーの軍事独裁、ソマリアの弾圧等々、誰もがわかっていながら改善が進展しない。

 何故か。サフィアはこの点で国際政治の現実を見せつけられる。一国の国民の平和は無視され、イラクの場合、石油を巡る各国の国益が優先されたのである。

 本書の一節に次のように述べられている。「サダムの共同墓地に埋められた大量の遺体は,いわば西側諸国の,しかも主として米国の手によって埋められた遺体だとも言えるのだ。米国は、…何度も何度もイラク国民を見捨てたのだから。だが,いったい誰が好んで…自分も責任があると認めるだろう。サダムの犯罪と国民の苦しみが国連の手続きを経て問題にされるとすれば、アメリカがイラク国民を見捨ててきたという事実は絶対に避けて通れなくなる。だから、イラク国民の苦しみより、サダムの大量破壊兵器を戦争理由にする方が、はるかに楽だったのだ」。

 さらに続けて、もともと反サダム戦略に国連が入り込めばイラクの石油を米国が独り占めできなくなるのだ、と述べている。サフィアのいわんとするところは幾多の不条理である。さらにサフィアは言う。「私は米国の擁護者ではない。…けれども現時点でイラク国民にサダム排除を約束できるのは、米国しかいないのだ。もちろん米国が自国の利害を追っているのはわかっている。しかしその行動が、同時にイラクの何百万人もの人間の利害を守ることにもなるのだ。西側の力ある他の諸国、フランスやドイツが援助を求める私たちの声を聞いてくれなかった今、私たちにできることは、最後にたった一つ残った超大国アメリカにこう呼びかけることだけなのだ。『あなたたちが生み出した怪物から、私たちを解放して!』」

 一方で、宗教と民族に基づく対立、戦い、殺し合いがある。このことについては、日本人は言葉ではわかっていても、実感できない。しかし、極めて重要な問題である。イラクにおいてもこのことが根底にある。イスラエルとパレスチナとの間も永遠に解決できない問題ではないかとさえ思えてくる。国連は何をしているのだろうか。やはり列強の思惑に支配されているのだろうか。

 本書は、イスラムも人間愛、家族愛、隣人愛を基として、平和な社会を築くことが究極の目的であると説いている。やはりすばらしい宗教である。しかし、現実は平和から如何に遠いことであろうか。私は教育の普及が不可欠であると考える。日本人は宗教に関しては極めてルーズである。我が国で昨今続発している命を軽視した悲惨な事件は、ルーズな宗教観も一因ではないかと思う。しかし、幸いにして我が国では少なくとも一定の教育水準は保たれていることによって、一応の民主国家が維持されている。教育を受けていない人たち(非識字者)は自分の考え・行動を持ち得ない。無意味に煽動されるだけだ。

 教育は百年の計である。イラクにしてもアフガニスタンにしても、中東・東南アジアにしても根気のいることであるが、教育に専念することだ。先進諸国は私利私欲を捨てて教育のために最大限の援助を惜しんではならない。そして、サフィアをはじめイラクの平和達成のために献身的に尽力する人たちをなんとしてでもバックアップし、平和国家イラクの実現を心より祈りたい。

 本書は、460ページにも及ぶ大著であるにもかかわらず、読んでいて淀むことがなく、読み進みたくなる書である。なぜか。J.A-Geissler(ガイスラー)による原著がすばらしいことは勿論のこと、その上、訳者による日本語訳がすばらしいからである。「訳者のあとがき」で福田さんは「翻訳との格闘が日々続いても、それが苦にならなかったのは、主人公サフィアの清い生き方と著者の知識と表現力のお陰である。」と述べている。この気持ちがあればこそ、この翻訳ができたのだ。福田さん、伊東さん、すばらしい訳をありがとうございました。

             

                                                                   

 

 

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